詳しい自己紹介
研究について
米国コロンビア大学経済学部・ビジネススクールにて、経営・組織・人事の研究に取り組んでいます。経済学や数学の枠組み、計量経済学・統計学の手法を用いて経営における諸問題を科学的・定量的に分析することで、科学的根拠のあるビジネスインサイトと再現性のあるソリューションを提示することを目標としています。
様々な企業から共同研究という形で人事データの提供を受け、計量経済学・統計学・機械学習を用いたアナリティクスを実施して、その成果を学術論文としてまとめて発表することをなりわいとします。これまでに発表した企業との共同研究には、在宅勤務が従業員の生産性・健康に与える影響に関する研究 [1]、部下の残業を増やす上司が部下の健康に与える影響に関する研究 [2]、職場における健康アプリの利用が従業員の健康に与える影響に関する研究 [3]、などがあります。
企業との共同研究
これまでには、主に化学メーカーや自動車メーカーなどの製造業の企業(例:[1, 2, 3])と共同研究を行ってきました。また現在進行中のプロジェクトではリスキリング推進事業団体や人材紹介業者とも共同で研究を行っています。研究で扱う人事データとしては、従業員の基本的な属性情報や勤怠記録、人事考課・発令記録、従業員サーベイなどが挙げられます(例:[1, 2, 3])。また企業内の産業保健スタッフの協力のもと、健康診断の結果やストレスチェックの回答を用いることもあります(例:[2, 3])。その他に、不動産ポータルサイト運営会社と共同で取り組んでいるおとり物件に関する研究では、不動産プラットフォーム上の物件・ユーザ情報のデータを利用しています [4]。
これらの人事・健康・顧客に関するデータは企業にとっては機密性の高い情報であるため、共同研究にあたっては個人情報保護や情報セキュリティに関する法令・規則、倫理及び協力企業の要請を遵守してデータを受領・保管・利用します。共同研究にあたっては、私が招聘研究員を務める早稲田大学組織経済実証研究所と協力企業との間で共同研究契約を締結して機密保持義務を明確に定めた上で、早稲田大学組織経済実証研究所の情報セキュリティ管理規程に基づいてデータの利用を行います。
共同研究にご関心のある企業ご担当者様はぜひお気軽にメールにてお問い合わせください。
(✉️: ritsu.kitagawa@columbia.edu)
学術的知見の社会実装
学術的研究に加えて、そこで得られた学術的知見を社会に実装するためのアウトリーチ活動にも精力的に取り組んでいます。
男女賃金格差測定ツールの開発
2022年7月の女性活躍推進法の改正に伴い、300人超の従業員を擁する企業には社内の男女賃金格差の開示が義務づけられた際には、労働経済学・計量経済学の知見に基づいた男女賃金格差の分析を専門知識なしで簡単に実施できるBIツール「GEM App」を考案し、東京大学エコノミックコンサルティング株式会社の事業として開発に従事しました。GEM Appは2022年11月にリリースされて以来、数多くの企業に利用されており、日本社会におけるジェンダーギャップの解消に貢献しています(例:年金積立金管理運用独立行政法人によるユースケース)。
ピープルアナリティクスの推進活動
2020年より一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会が開催している実務家対象の研修プログラム「Rによる人事データ分析入門 e-Learning講座」の立ち上げを教材作成統括(当時)として支えました。現在も当該プログラムの講師としてHR領域におけるデータサイエンスの実践手法を実務家の方にレクチャーしています。これらの取り組みが評価され、2024年10月にはピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の上席研究員に任命され、現在は上席研究員として新講座「Pythonによる人事データ分析入門 e-Learning講座」の立ち上げやその他の協会活動に取り組んでいます。
一般向けの執筆活動
2023年にオーム社より出版した書籍『Rによる実証分析』第2版は、経営施策の効果検証においても重要なツールとなる因果推論と呼ばれる統計手法に関する教科書で、多くの大学の計量経済学・統計学の講義において教科書・参考書として指定されています。また、勁草書房より近刊の『現実世界の統計学:政治・公共政策を学ぶ人に伝えたい、統計のリアルな使いかた』(ジョージタウン大学教授Michael A. Baiely氏の著書 Real Stats: Using Econometrics for Political Science and Public Policy, Oxford University Press)の翻訳に携わりました。本書は政策研究・政策実務を志す人のための教科書で、一般的な因果推論の書籍よりも直感的な解説と豊富な具体例が特徴です。さらに、経済学ベーストなピープルアナティクスに関する書籍を技術評論社の企画として現在執筆中です。
また、不定期で日本評論社の隔月刊雑誌『経済セミナー』の海外論文サーベイというコーナーに、人事と組織の経済学の最先端の研究を紹介・解説する記事を寄稿しています。これまでに、職場におけるタバコ休憩が従業員の昇格に与える影響に関する研究を紹介した記事「煙に隠れる男女格差:職場におけるタバコミュニケーションの弊害」を寄稿しました。
その他の活動
2023年には、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター・フィールド実験のビジネス応用研究部会と早稲田大学ビジネススクールが主催した「Field Experiment Design Tournament: ビジネスの現場で活用する『フィールド実験』のデザイン・コンテスト 2023」の1次審査員を務めました。MBA生を中心とする大学院生からのビジネスにおけるフィールド実験のプロポーザルに一つ一つフィードバックのコメントを与えつつ、数十件にのぼる応募を審査しました。
同年11月には、大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)とmercari R4Dが主催する「男女間賃金格差是正のためのケーススタディワークショップ」に有識者として招聘され、人事経済学の専門知識に基づいた質問やコメント・提案をし、そのディスカッションをケーススタディとしてまとめた論考「人事データ分析を利用した男女間賃金格差是正の取組み : 株式会社メルカリにおけるケーススタディ」をELSE NOTEとして公開しました。
参考文献
[1] Working from home and productivity under the COVID-19 pandemic: Using survey data of four manufacturing firms. [LINK]
[2] Middle Managers and Employee Health. [LINK]
[3] Employee well-being in the digital age: Assessing the impacts of a smartphone application in the workplace. [LINK]
[4] Bait and Switch in the Japanese Rental Housing Market. [LINK]